率直な対話が、組織を強くする。職場で生かすアサーション入門

「何か気になることがあれば、遠慮なく言ってください」

朝礼や会議、1on1で、こう呼びかけている管理職は少なくありません。
けれど、実際に部下から率直な意見や相談が上がってくるとは限りません。

少しの間違いに気づいても、ベテラン社員には指摘しづらい。
仕事を抱えきれなくても、忙しそうな上司には相談しづらい。
急な依頼を断れず、自分の業務にしわ寄せが出てしまう。

こうした「言えない」は、本人の性格やコミュニケーション能力の問題として捉えられがちです。しかし、必要な相談や懸念が共有されなければ、重大なミスや事故、品質低下、社員の疲弊につながることもあります。

そこで、改めて注目したいのが「アサーション」です。アサーションと聞くと、「自分の意見をはっきり主張すること」をイメージする人もいるかもしれません。しかし、本来のアサーションは、一方的に意見を押し通すことではありません。今回は、アサーションの基本と、職場で生かすためのポイントを紹介します。

目次

この記事のまとめ

・アサーションとは、相手も自分も尊重しながら必要なことを率直に伝えるコミュニケーション。
・「何でも言う」ことではなく、目的や状況に応じて「言う/言わない」を自分で選ぶことが基本。
・定着には「言う側」の話し方だけでなく「受け止める側」の環境づくりも欠かせない。

アサーションとは、相手も自分も大切にするコミュニケーション

アサーションとは、相手の意見や立場を尊重しながら、自分の考えや感情も率直に伝えるコミュニケーションの考え方です。
自分の意見を押しつけるのでもなく、自分の考えを飲み込んで相手に合わせ続けるのでもない。相手と自分の双方を大切にした自己表現だといえます。

職場でのコミュニケーションは、大きく3つに分けて考えることができます。

1つ目は、自分の主張を優先し、相手の事情や気持ちを軽視する攻撃的なコミュニケーション。
2つ目は、相手を優先するあまり、自分の意見や感情を抑え込む非主張的なコミュニケーション。
そして3つ目が、自分の考えを率直に伝えながら、相手の立場にも配慮するアサーティブなコミュニケーションです。

特に日本の職場では、「空気を読む」「相手を立てる」「波風を立てない」といった姿勢が重視されることがあります。もちろん、相手への配慮は大切です。ただし、配慮することと、自分の意見をすべて飲み込むことは同じではありません。

アサーションは、自己主張を強くするための技術ではなく、必要なことを、相手が受け止めやすい形で伝えるための技術です。

アサーションは「何でも言うこと」ではない

アサーションを考えるうえで、まず押さえておきたいのが、「思ったことを何でも口にすることではない」という点です。単なる愚痴や感情の発散、相手の人格に対する批判は、アサーティブなコミュニケーションとはいえません。

大切なのは、目的や状況に応じて、「言う」「言わない」を自分で選ぶことです。
例えば、次のような内容は、職場で共有する価値が高いものです。

・安全や品質に関わる懸念
・業務上の認識の違い
・期限や業務量に関する相談
・一人では対応できない場合の支援要請
・人間関係やコミュニケーションの行き違い

一方で、単なる八つ当たりや、相手が変えられない特徴への批判などは、伝え方やタイミングを見直す必要があります。

「言いたいことをすべて言う」のではなく、「仕事や関係性をより良くするために、何をどう伝えるかを選ぶ」。これがアサーションの基本です。

アサーションは「何でも言うこと」ではないことを示す図。「言う価値が高いこと」として、安全・品質に関わること(危険な作業、ヒヤリハット、ミスや不具合)、業務遂行に関わること(支援が必要、期限に影響する、認識違いがある)、関係改善につながること(誤解、モヤモヤ、コミュニケーションの行き違い)を挙げる。一方「言う価値が低いこと」として、相手が変えられないこと(容姿、年齢、生まれ持った特徴)、単なる感情の発散(愚痴、不満のぶつけ合い、八つ当たり)、今伝える必要がないこと(緊急対応中の個人的な話、後日の方が効果的な内容)を挙げる。大切なのは、目的や状況に応じて「言う」「言わない」を主体的に選択すること。

なぜ、必要なことでも「言えない」のか

管理職は「勇気を持って意見や相談を口にしてほしい」と思うものの、部下からするとなかなか言い出せない、ということがあります。しかし、「言えない」背景には、単なる性格以外の要因が隠れています。代表的なのが、次の3つの壁です。

1. 相手への思い込みの壁

「この人には、どうせ伝わらない」
「上司に反論したら評価が下がる」
「ベテラン社員は若手の話を聞かない」

こうした思い込みがあると、実際に話しかける前から「言っても無駄だ」と判断してしまいます。

過去に否定された経験がある場合もあるでしょう。ただ、「以前は聞いてもらえなかった」という事実と、「今回も絶対に聞いてもらえない」という予測は同じではありません。相手への決めつけによって、行動を起こす前に自分を止めてしまうのです。

2. 自分自身への思い込みの壁

「自分が言う立場ではない」
「場の空気を壊したくない」
「きちんと整理してからでないと話してはいけない」
「間違っていたら恥ずかしい」

こうした思い込みが強いと、少しでも不安がある状態では発言しづらくなります。
特に、相手への配慮ができる人ほど、「忙しそうだから話しかけないほうがよい」と考えることがあります。けれど、相談を先送りした結果、問題が大きくなれば、かえって周囲の負担を増やすこともあります。

3. 気持ちを言葉にできない壁

「何となくモヤモヤする」
「嫌だとは思うけれど、何が嫌なのか説明できない」
「感情的になりそうで話せない」

このような状態では、自分が何を伝えたいのか整理できていないため、言葉にすることが難しくなります。

アサーションを実践するには、話し方のテクニックだけでなく、「自分は何を恐れているのか」「相手に何を決めつけているのか」「本当は何を伝えたいのか」を整理することが大切です。

最初から上手に話そうとせず、「小さく言う」練習をする

アサーションを実践しようとしても、「相手を傷つけずに、自分の感情を率直に伝えなければ」と考えすぎると、発言のハードルは上がります。そこで意識したいのが、いきなり完璧な主張をしようとせず、「小さく言う」ことです。

忙しそうな上司に相談したい場合、最初から事情をすべて説明する必要はありません。

「少しご相談があるのですが、今2〜3分よろしいですか?」

「確認したいことがあるのですが、お時間をいただけますか?」

「少し不安な点があるので、一緒に見ていただけませんか?」

短い第一声をかけるだけでも、対話は始められます。
無理な依頼を断るときも、強い言葉で拒絶する必要はありません。

「お力になりたいのですが、現在の状況では難しいです」

「その期限での対応は難しいのですが、明日の午後なら可能です」

意見や懸念を伝える場合には、次のような切り出し方もあります。

「私には少し違って見えているのですが、お伝えしてもよいでしょうか」

「気になった点があるのですが、確認してもよろしいですか」

重要なのは、最初から完璧に説明することではありません。まず対話の入口をつくることです。

相手を責めず、「事実・感情・提案」で伝える

対話を始めた後は、相手を責めずに、自分の考えや気持ちを伝える必要があります。その際に役立つのが、主語を「あなた」ではなく「私」にする『I(アイ)メッセージ』の考え方です。

例えば、進捗が共有されていないときに、「どうして連絡してくれないのですか」と伝えると、相手を責める表現になりやすくなります。一方で、次のように伝えることもできます。

「予定していた時間までに進捗の共有がありませんでした。状況が分からず、私は少し不安に感じています。遅れそうな場合は、事前に共有してもらえると助かります」

ポイントは、「事実」「自分の感情」「提案や願い」の順番で整理することです。

「あなたが悪い」と評価するのではなく、「私にはこう見えている」「私はこう感じている」「私はこうしてほしい」と伝えることで、相手も話を受け止めやすくなります。

ただし、型を完璧に使う必要はありません。まずは「1つの事実に、自分の気持ちや願いを1つ添える」くらいから始めるとよいでしょう。

キモチを伝える「3ステップ」を示す図。ステップ1「事実」は、"私にはこう見えています"と、先入観や決めつけではなく客観的にみた事実を伝える。ステップ2「感情(Iメッセージ)」は、"だから私は〜だと感じています"と、怒りの感情は使わず、うれしい&悲しいで伝える。ステップ3「提案・願い」は、"だからこうしましょう"と、状況をよりよくするための提案やお願いを伝える。

「言う側」だけでなく、「受け止める側」も学ぶ

こうした「伝え方」の技術は、「受け止める側」も学ぶ必要があります。例えば、社員がアサーションの技術を身に着け、勇気を出して上司に相談をしたとしても、上司がその第一声を遮ったり、意見を「反抗」と受け取ったりすれば、社員は再び言わなくなります。

例えば、部下から「少し相談したいのですが」と言われたとき、忙しさから「今は無理」と返してしまうこともあるでしょう。

すぐに聞けない場合でも、
「今は手が離せないので、15時からなら聞ける」
「急ぎの内容かどうかだけ教えてほしい」
と返せば、相談の入口を閉ざさずに済みます。

部下が仕事を断ったときも、「やる気がない」と決めつけるのではなく、業務量や期限、安全、品質などの観点から理由を確認することが大切です。アサーションを定着させるためには、「言う側」と「受け止める側」の双方が学ぶ必要があります。

アサーションを、日常の共通言語に

また、アサーションは考え方を理解するだけでは定着しません。実際の職場で繰り返し実践しなければ、以前のコミュニケーションの癖に戻ってしまうことがあります。

  • 学んだ内容を忘れてしまう。
  • 実践する場がない。
  • 周囲がアサーションの考え方を知らない。
  • 勇気を出して話しても、受け止めてもらえない。

こうした状態では、個人の努力だけで習慣化することは難しいでしょう。

研修を一度実施して終わりにするのではなく、実際の職場で起こりやすい場面をもとに練習する、管理職にも受け止め方を学んでもらう、会議や1on1で懸念や違和感を共有する時間をつくるなど、日常の中で実践できる環境が必要です。
アサーションを特別な技法として扱うのではなく、相談、依頼、提案、確認の場面で使う共通言語にしていくことが大切です。

まとめ

アサーションは、自己主張を強くするためのものではありません。
自分の考えを押しつけるのでもなく、自分を抑えて我慢するのでもなく、相手と自分の双方を尊重しながら、必要なことを率直に伝えるためのコミュニケーションです。

人事に求められるのは、社員に話し方を教えることだけではありません。社員が発した言葉を、上司や周囲が受け止められる環境をつくることです。
必要なことを、必要なときに、相手を尊重しながら伝えられる職場をつくる。その一歩として、アサーションを取り入れてみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

瀧本恵美のアバター 瀧本恵美 エン株式会社 入社後活躍支援・組織開発コンサルタント

2004年にエン・ジャパン株式会社(現:エン株式会社)に新卒入社。採用支援の営業・ マネージャー、新規事業の立ち上げを経て、現在は大手企業を中心としたオンボー ディングやキャリア自律、組織開発をテーマにコンサルティングに従事。新卒の早期 離職やコンディション変化の分析・発信を行い、日本経済新聞(2026年1月・4月)に コメントが掲載。

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