部下の成長に大きく影響を与える上司からの関わり方
4月を迎え、新たな部下を迎えた管理職の方も多いのではないでしょうか。多様な能力を持つ社員が混在する環境下で、誰しもが同じ成果を上げられる育成環境を整えることは、決して簡単ではありません。
熱心に指導しているつもりでも、「部下が放置されていると感じる」「細かく指示したことで、かえって自律性が損なわれてしまった」といった声は、多くの組織で聞かれる悩みです。
部下の成熟度や置かれている状況は、一人ひとり異なります。画一的なマネジメント手法を見直し、部下の状態に合わせてアプローチを変化させることで、「指示が多すぎる/少なすぎる」「任せすぎて不安/任せてもらえない」といったミスマッチを減らせると考えるのが、「シチュエーショナル・リーダーシップ理論」です。
本記事では、この理論に基づいた個々に最適なマネジメントの考え方と、明日から使える実践方法を解説します。
この記事の要約
シチュエーショナル・リーダーシップ理論とは
部下の状態を「能力」と「意欲」の2軸で分類し、リーダーシップの基本行動である「指示」と「支援」の組み合わせを調整するリーダーシップ理論です。
この記事でわかること
・シチュエーショナル・リーダーシップ理論の具体的な解説と実践手法を解説します。
・画一的な指導を見直し、各タイプに適した指示と支援を行なうことで、部下の成長と組織のマネジメント力を高めます。
シチュエーショナル・リーダーシップ理論の背景
シチュエーショナル・リーダーシップ(Situational Leadership)は、1977年にポール・ハーシーとケン・ブランチャードによって提唱されました。「状況対応型リーダーシップ」とも訳されるこの理論は、リーダーシップに唯一の絶対的な正解は存在しないという前提に基づいています。
部下の状態を「能力」と「意欲(モチベーション)」の2軸で捉え、その組み合わせに応じてリーダーの関わり方を変えることが特徴です。
活用することでのメリット
この理論を実践することで、組織には以下のような効果が期待されます。
部下の能力を最大化できる
部下のスキルレベルやモチベーションの状態に応じた指示と支援を使い分けることで、部下は自分が必要としている関わりを受け取ることができます。これにより、摩擦を減らし、最短での成果創出を図りやすくなります。
定着率(リテンション)が向上する
上司からの適切なフィードバックや支援は、部下に「理解されている」「尊重されている」という感覚を与えます。これがエンゲージメントを高め、組織への帰属意識を強める土壌となります。
マネジメントの再現性が高まる
人柄や感覚に頼りがちなマネジメントを、状況に応じて使い分けられる「技術」に変えることで、属人化を防ぎ、組織全体で育成の質を一定以上に保つことができます。
部下の4タイプと、リーダーの4つの関わり方
シチュエーショナル・リーダーシップ理論では、部下の状態を「能力」と「意欲(モチベーション)」の2軸で分類し、リーダーシップの基本行動である「指示(仕事の進め方を明確にする)」と「支援(人間関係を良好に保ち、やる気を引き出す)」の組み合わせを調整します。

R(Readiness:レディネス)=部下の「準備度・成熟度」
部下がその業務に対して、どれくらい「能力」と「意欲(モチベーション)」を持っているかの状態。
S(Style:スタイル)=リーダーの「関わり方」
部下の状態に合わせて、リーダーがとるべき「指示」と「支援」の組み合わせ。
部下の4タイプ
R1:指示が必要な状態(能力低・意欲高)
新人、他部署からの異動者などが該当します。意欲はあるものの、何をどう進めればよいか分からない状態です。やる気はあるが、経験やスキルがまだ足りない立ち上がり期と捉えるとイメージしやすいでしょう。
R2:コーチングが必要な状態(能力低〜中・意欲が低下している状態)
入社2〜3年目など、業務の概要は理解しつつも、自分の判断に自信が持てない、あるいはスランプ気味の社員が該当します。少しできるようになったからこそ、壁にぶつかり、意欲や自信が揺らいでいる状態です。
R3:援助が必要な状態(能力中〜高・意欲が不安定)
業務を遂行する能力は十分にあるものの、精神面や環境要因で意欲が上下しやすい社員が該当します。
例えば、家庭やプライベートの事情、組織変化の影響などで、気持ちに波があるような状態です。
R4:委任できる状態(能力高・意欲高)
専門知識を持ち、自律的に判断・行動ができる社員が該当します。
安定して成果を出しており、自ら課題を見つけて動けるハイパフォーマー・次世代リーダー候補といえる人材です。
リーダーが取るべき4つのリーダーシップ
部下のタイプに合わせて、リーダーは以下の型を使い分けることが求められます。
S1:指示型(高指示・低支援)
「何を、いつ、どのように」行うかを明確に示すスタイルです。まずは業務の遂行と正しい手順の習得を優先します。
S2:コーチ型(高指示・高支援)
指示を出すだけでなく、部下の意見を聞き、動機付けを行なうスタイルです。業務の進め方と部下の能力開発の両軸を意識して関わります。
S3:援助型(低指示・高支援)
意思決定は部下に委ね、リーダーは傾聴と承認を通じて部下を支援します。プロセスにおける不安を取り除き、自己効力感を高める役割を担います。
S4:委任型(低指示・低支援)
権限を大きく委譲し、見守るスタイルです。リーダーは最終的な成果物のみを評価し、細かな介入を避けます。
重要なのは、これらの型を固定しないことです。部下の成長や状況の変化に合わせてスタイルを移行させることが、リーダーに求められる柔軟性といえます。
シチュエーショナル・リーダーシップ理論を活用したマネジメント例
ここからは、R1〜R4の部下タイプに合わせて、S1〜S4のスタイルをどう使い分けるかを、具体的に見ていきましょう。
S1 指示型|まずはやり方を示す
対象:新入社員、異動者などの新たなミッションを持つ人
要点:ティーチングに徹し、迷いをなく
- 何を、いつまでに、どう進めるかを具体的に指示する
- あいまいな指示を避け、定量的なゴール(数値や期限)を設定する
- なぜそのやり方なのか、背景となる目的・理由を納得するまで説明する
S2 コーチ型|やり方を定着させ、意欲を高める
対象:業務に少し慣れてきた若手
要点:双方向の対話を通じ、自己解決力を育む
- 指示を出すだけでなく、「あなたはどう思う?」と意見を引き出す
- 5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)で考えさせる
- 間違いがあればすぐに指摘するのではなく、ヒントを与えて自ら気づかせる
S3 援助型|自律を促し、心理的安全性を提供する
対象:業務遂行能力は高いが、意欲や自信が不安定な中堅
要点:答えを教えるのではなく、背中を押す
- 意思決定は本人に任せ、「何かあったら相談して」と心理的距離を縮める
- 小さな進捗や行動を承認・賞賛し、自己効力感を高める
- 相談を待つのではなく、定期的な声掛けで状況を把握する
S4 委任型|裁量を与え、次のリーダー/ハイプレーヤーを育てる
対象:リーダークラス、自律的に成果を出せる人
要点:信頼して任せ、視座を高める機会を与える
- 「あなたならできる」と信頼を伝え、権限を委譲する
- 個人の目標達成だけでなく、チームや組織への影響力を高める課題を与える
- 細かなプロセス確認はせず、最終的な成果とプロセス全体を評価する
おわりに
画一的な関わり方ではなく、部下一人ひとりの状態に合わせてスタイルを切り替えることが、シチュエーショナル・リーダーシップのポイントです。
まずは、身近な部下をR1〜R4のどのタイプに近いか整理し、それぞれにどのスタイルで関わるかを考えてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
スタイルの選択を意識的に行なうことで、部下の成長スピードを高めるだけでなく、管理職のマネジメント上の悩みを解消するヒントにもなります。
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