人と組織に変化をもたらす研修は、どうつくられるのか?エンのシニアコンサルタントが語る 研修設計の舞台裏

人と組織に変化をもたらす研修は、どうつくられるのか

企業にとって、人材育成は欠かせない取り組みです。一方で、研修を実施することが、そのまま現場での行動変容につながるとは限りません。研修で得た学びを、どうすれば職場での行動につなげられるのか。企業の課題をどのように捉え、研修当日の学びから職場での実践までを、どう設計すると良いのでしょうか。

本企画では、営業出身のライターである私・亀井が、エンのコンサルタントに素朴な疑問をぶつけていきます。第2回は、シニアコンサルタントの後藤に、研修設計の思考プロセスを聞きました。

今回お話を聞いた人

 

後藤 友彦
エン株式会社 教育・評価 人材活躍支援事業部
シニアコンサルタント

新卒でエン株式会社に入社。新卒採用支援の営業を経て、2014年より教育・評価領域に携わる。大手企業を中心に「入社後の活躍・定着」を支援し、人事評価制度の設計・運用から、若手・中堅・管理職を対象とした教育研修まで、10年以上にわたり人材・組織開発に従事。

現在はシニアコンサルタントとして、企業が目指す姿と現場の課題を構造的に捉え、研修設計・実施にとどまらず、職場での行動変容や成果創出までを見据えた支援を行う。評価と教育を一体で捉え、人材育成を企業の業績向上につなげることを重視している。

この記事の要約

  • 研修設計の出発点は「課題の見立て」: 研修内容を考える前に、企業が目指す状態と現状のギャップ、その原因を整理することが重要。知識・スキルだけでなく、本人のマインドや職場環境まで捉え、研修で働きかけるべき課題を見極める。
  • 行動変容には「本人の納得」と「内省」が欠かせない: WHY・WHAT・HOWを整理し、体験・内省・レクチャーを受講者の状態に応じて組み合わせる。正しいことを教えるだけでなく、本人が「なぜ自分に必要なのか」を理解し、自ら次の行動を考えられる設計が求められる。
  • 研修は「職場で行動が変わるところ」まで設計する: 研修当日だけで完結させず、受講前の動機づけから、研修中の気づき、職場での実践までを一連のプロセスとして捉える。学びを実際の行動や組織の変化につなげることが、研修設計のゴールとなる。

研修を頼まれても すぐに研修内容は考えない

— 研修を設計するとき、まず何から考えるのでしょうか?

まず考えるのは、『何が問題なのか』です。研修はあくまで問題解決の手段の一つであり、研修だけで問題のすべてが解決することはほとんどありません。だからこそ、最初から研修内容を考えるのではなく、企業が目指す状態と現状との間にどのような隔たりがあるのか、その隔たりはなぜ生じているのかを考えます。

— 問題の原因は、どのように整理するのでしょうか?

大きく、本人側の要因と環境側の要因に分けて整理します。

本人側の要因には、知識やスキルの不足だけでなく、マインドの問題も含まれます。必要な行動を知らない、実践する力が足りないという場合もあれば、そもそも本人が変わる必要性を認識していない場合もあります。実際には、知識やスキルの不足よりも、「自分が変わる必要がある」と本人が納得できていないことが、行動を阻んでいるケースの方が多いと感じています。環境側の要因には、上司や関連部署との関係、組織の文化や風土、評価制度、業務分担などがあります。

例えば、「管理職が部下の話を聞かない」「対話を通じて部下の考えを引き出せていない」という課題があったとします。管理職に対話の知識やスキルが不足しているのであれば、コーチングの考え方を学び、実践する研修が有効かもしれません。一方で、管理職がプレイングマネジャーとして業務に追われている、短期的な成果を強く求められている、部下との対話に時間を使うことが評価されないといった状況であれば、スキルを教えるだけでは行動につながりにくいでしょう。

行動変容を阻む要因の整理

このように、表面に現れている行動が同じでも、その原因によって必要な働きかけは異なります。研修で扱うべき課題を見誤らないためには、本人に何が足りないかだけでなく、その行動が生まれている背景まで捉える必要があります。そのため、受講者が置かれている状況を、できる限り具体的に理解します。業界や職種、普段の業務に加えて、どのような気持ちで研修に参加するのか、これまで同じ課題に対してどのような施策を行い、その結果、何が変わったのか、あるいは変わらなかったのかも確認します。

そうした情報を踏まえて、目指す状態に近づくために何を変える必要があるのかを整理し、その中で研修が担う範囲を決めます。知識やスキルを身につけてもらうのか、物事の捉え方や向き合い方を変えるのか。あるいは、研修だけでなく、上司の関わり方や業務の進め方など、職場側にも働きかける必要があるのかを見極めます。

受講者が行動に移るまでの道筋を設計する

— 研修で働きかける対象を定めた後は、どのように内容へ落とし込むのでしょうか?

研修内容を考えるときは、基本的にWHY・WHAT・HOWの3つの観点で整理します。
WHYは「なぜ行う必要があるのか」、WHATは「何を学ぶのか」、HOWは「具体的にどのように行うのか」です。

例えば部下指導であれば、WHYは「なぜ部下指導が必要なのか」、WHATは「部下指導とは何か」、HOWは「どのように部下を指導するのか」です。この考え方は、研修全体だけでなく、一つひとつのセクションを組み立てるときにも用います。受講者の状態や研修のテーマによって、WHY・WHAT・HOWのどこに重点を置くかは変わります。その中でも、私は特にWHYが重要だと考えています。会社が研修を行う際には、「こういうことを理解してほしい」「このように行動してほしい」という意図があります。しかし、その意図をそのまま伝えても、受講者が「一般論だ」「自分には関係ない」と感じていれば、行動にはつながりません。本人が納得しない限り、行動は変わらないからです。

だからこそ、会社が研修を行う理由を説明するだけではなく、受講者自身が「なぜ自分に必要なのか」を、自分の仕事や課題と結びつけて捉えられるように設計することが重要です。

— 具体的に、研修ではどのように学びを促すのでしょうか?

研修では、主に「体験・内省・レクチャー」の3つの要素を組み合わせます。どの要素から始め、どのような順番で進めるかは、受講者がなぜ今できていないのかによって変わります。

必要な知識を知らないのであれば、レクチャーから始める。知識としては分かっていても実践できていないのであれば、まず実習を通じて試してもらいます。本人の物事の捉え方や向き合い方を変える必要がある場合には、体験や対話を通じて、これまでとは異なる見方に気づいてもらうこともあります。ここでいう体験には、研修内のロールプレイングや演習だけでなく、普段の仕事での経験も含まれます。そのため、新たに実習を行うだけでなく、日頃の業務を振り返るところから始める研修もあります。

— 組み合わせ方に、何か決まったルールはあるのでしょうか?

明確なルールがあるわけではありません。体験・内省・レクチャーをどのような順番で組み合わせるかは、受講者の状態や研修のテーマによって変わります。例えば、実習を行っただけでは何に着目して振り返ればよいのか分からない場合には、実習後にレクチャーを挟み、考えるための視点を示してから振り返ってもらいます。

ただし、どのような組み合わせであっても、振り返りのない研修はありません。どの程度の時間をかけるかはテーマや受講者によって異なりますが、体験やレクチャーから何を得たのかを振り返り、自分の仕事や行動に結びつけるために、内省は欠かせない要素です。受講者がなぜ今できていないのかを捉え、その理由に応じて、WHY・WHAT・HOWのどこに重点を置くのか、体験・内省・レクチャーをどう組み合わせるのかを考える。そうして、受講者が行動に移るために必要な研修を組み立てていきます。

その場で起きたことを、学びに変えるのが講師

— 研修当日は、どのようなことを大切にしているのでしょうか?

事前に設計した内容をそのまま実施するだけでなく、受講者の発言や反応を捉え、その場で起きたことを学びにつなげることです。特に実習では、受講者の発言や行動、判断そのものが学びの材料になります。実習の中で起きたことを取り上げ、「自分ではどうだったと思いますか」と振り返ってもらいます。そうすることで、講師から一方的に評価を伝えるのではなく、受講者自身が「自分は実際にどう行動していたのか」「なぜその行動を取ったのか」を捉え直すことができます。そこから、自分自身の課題や、次にどのような行動を取るかを考えてもらいます。

— フィードバックするときに、意識していることはありますか?

実際に起きた事実に基づいて伝えることです。

私自身、受講者の立場で考えると、普段の仕事を知らない講師から突然「あなたはこういう人ですね」「ここができていませんね」と言われたら、「何を見てそう判断したのだろう」と疑問に思います。講師の主観が強く混じるほど、フィードバックを受け取ってもらえない可能性は高くなります。だからこそ、実習で見られた具体的な言動を示します。例えば、「この場面では、こういう発言をしていましたね」「このとき、こういう判断をしましたね」と事実を伝え、本人に振り返ってもらいます。そのうえで、「私にはこのように見えました」と講師としての見立てを伝えることはあります。ただし、それを正解として押しつけるのではなく、本人が自分の行動を捉え直すための材料として返します。

— 研修では、受講者に厳しく伝えてほしいという要望を受けることもあるのでしょうか?

あります。研修をご依頼いただく際に、「受講者に厳しく指摘してほしい」「できていないことをしっかり伝えてほしい」といった期待をいただくこともあります。ただ、厳しく指摘すれば、それだけで人が変わるわけではありません。大切なのは、本人がそのフィードバックを受け取れることです。特に、受講者の主体性を引き出したい研修で、講師が「あれをやりなさい」「これはだめだ」と正解を押しつければ、目指す変化と講師の関わり方が矛盾してしまいます。自分で考えて行動してほしいのに、講師の指示に従うことを求める形になるからです。

フィードバックは、伝えること自体が目的ではありません。受講者が自分の行動を振り返り、次の行動を考えるきっかけにするためのものです。研修を通じてどのように変わってほしいのかを考え、その変化につながる伝え方を選ぶ必要があります。こうした関わり方を考えるうえでは、「人はどのようなときに行動するのか」「なぜ、必要だと分かっていても変われないのか」といった、人の心理や行動への理解が欠かせません。

事前に設計した内容を、受講者にとっての学びに変える。それだけでなく、その場で起きた事実を振り返りの材料として返し、受講者自身の気づきや次の行動につなげることも、講師の役割です。

職場で行動が変わるところまで設計する

— 研修のゴールは、どこに置いているのでしょうか?

受講者が学んだことを実際の業務で生かし、行動が変わることをゴールとしています。そのため、研修で何を学んでもらうかだけでなく、その学びを業務のどのような場面で生かしてほしいのかまで考えます。

職場での実践につなげるうえで重要なのが、研修へ参加する前の動機づけです。理想は、普段の仕事を見ている上司から、「なぜあなたにこの研修を受けてほしいのか」「何を学び取ってほしいのか」「それを業務でどう生かしてほしいのか」まで、セットで伝えてもらうことです。本人の仕事や課題と結びつけて伝えることで、受講者も研修に参加する目的を具体的に捉えやすくなります。もちろん、そこまで準備することが難しい場合もあります。その場合には、研修の中で、今回の学びが自分にとってどのような意味を持つのかを理解してもらえるようにします。

研修当日の一日だけを切り取るのではなく、受講前の動機づけから、当日の学び、職場での実践までを一つの流れとして捉える。職場で実際に行動が変わり始めるところまで見据えることが、研修設計では大切です。

最後に

今回の取材を通じて見えてきたのは、人の行動を変えるために必要なのは、正しいことを教えたり、変わるように強く促したりすることだけではない、ということでした。

なぜ今、その行動ができていないのかを捉える。本人が学ぶ必要性を自分の仕事や課題と結びつけられるようにする。体験を通じて自ら気づき、次の行動を考えられるようにする。そして、その学びを職場で実践できるところまで見据える。研修コンサルタントの仕事は、本人が自ら変わろうと思い、行動に移すための道筋をつくることだとわかりました。決まった研修を当てはめるのではなく、人が行動し、変わるプロセスを理解したうえで、一つひとつの働きかけを設計する。そこに、人と組織に変化をもたらす研修をつくる専門性があるのだと思います。

次回も、エンの研修コンサルタントに素朴な疑問をぶつけながら、人と組織の課題をひも解いていきます。今後のインタビューにもご期待ください!


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この記事を書いた人

エン株式会社「Discover HR」編集部・記者。

企業の人材育成や組織づくりを支援する法人営業を経験したのち、現在は営業企画・マーケティングに従事。「Discover HR」では、人事・組織領域を中心に、記事の企画、取材、執筆を担当している。