「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というPurpose(存在意義)のもと、多様な事業を展開しているソニーグループ。そのグループ本社機能に特化した会社であるソニーグループ株式会社でヘッドクォーター(HQ)領域のHRBPおよび新卒採用に携わっている浅井さん、そして同じくHQのHRBPを担当されている笠嶋さんに「HR OnBoard」を活用したオンボーディング施策についてお話を伺いました。
HR OnBoard導入のきっかけを教えてください
成長しているのに実感が持てない新入社員
―浅井さん
導入したのは、2021年度からです。導入を検討するきっかけになったのは前年度。コロナ禍真っただ中で新入社員が入ってきました。入社式も急遽オンラインで実施。すぐに仕事を始められる状況ではありませんでした。待機期間を経て、約2か月遅れの研修・配属。
リモートでの配属は、受け入れる現場も戸惑うことが多かったと思います。そのような状況の中ではありましたが、例年と比較しても順調に成長しているように見えました。
ただ、本人がその成長を実感できない。周囲との何気ないコミュニケーションが生まれにくい環境では「理想をもって入社したものの、自分は果たしてこの組織の一員として役に立っているか?」と、必要以上に不安を感じているようでした。
―笠嶋さん
新入社員に対しては入社2~3ヶ月経つ頃に面談をするようにしています。その際、よく聞くのは「リモートワークだと気軽にコミュニケーションが取りづらい」という声です。
先輩社員は「なんでも聞いてね」というスタンス。いつ声を掛けられても気にしないのですが、入社者の中にはどうしても気を遣ってしまい、そうはできない人もいる。さらにオンラインだと、同じ空間にいないため、気軽にしゃべりかけることがしにくい。
また、「自分のやりたいことを、自分のやり方でできる」社風にすぐ慣れることができず、動きにくさを感じている人もいます。そういった悩みを抱える人たちをいち早く発見し、組織に馴染んでいくための支援を行う必要がある。そう考え、HR OnBoardの導入を決めました。
実際に導入してみていかがでしたか?
―浅井さん
実は、以前から海外の大学を卒業した外国籍社員(グローバル社員)向けのオンボーディングのためにHR OnBoardを活用していました。
研修を行い、横の繋がりを作り、フォローをする・・・これも大切ですが、どうしても時間かかります。一番大事なのは、悩んでいる人を早期に見つけて、いち早くそのモヤモヤを解消すること。HR OnBoardはそれが一番実現できるサービスだと考えました。
運用する側もオペレーション負荷は高くなく、また回答者も手軽に回答できる。このシンプルさを評価していたので、それを会社全体でやろうということになりグループ会社にも声をかけました。
―笠嶋さん
職場のマネジメントを通じて共有される声って、時間がかかりますよね。それに間接的な情報なので正確に状況を把握することが難しい。
その点、HR OnBoardは即時性がある。回答後すぐ結果が反映されるし、コンディション状態が良くない社員にヒアリングにいけば正しい情報が得られる。
―浅井さん
副次的な効果ですが、フリーコメントが活きています。どんな状態でもコメントを書いてもらっています。現場のリアルな情報を把握できるんですよね。以前は各部署にふらっと立ち寄り、何気ない会話などから職場の今の状況・雰囲気を感じ取ることもできましたが、今はそれができない。
入社者の声を通じて「いまこの部署は大変そうだな」とか「あれ、思ったより忙しくなさそうだな」とかが見えてくるので、状況判断の材料に使っています。
入社者が安心して回答できる環境づくり
―笠嶋さん
特別なことはしていません。
まず、アンケート配信を開始する前に趣旨説明のメールを送っています。「人事評価に影響しない」「上司は結果を見ない」ことをきちんと説明する。エン・ジャパンさんに教えてもらった内容です。また、即時性を活かしたいので、回答されたらできるだけすぐにフォローするようにしています。そうすると「見てくれている感」が出る。
ただ、「見てくれている感」が逆に息苦しさを感じさせる場合もあるので、「見ていますよ」を伝えるかどうかは本人の反応に応じてケース・バイ・ケースで対応しています。
―浅井さん
新卒と中途で悩みの違いを感じることもあるよね。
―笠嶋さん
そうですね、新卒の方はやはり働いたことがないので、
・自分はちゃんと成長しているのか?
・仕事のペースが適切なのか?
・上司との関係はこれが普通?
といったことに悩みやすいです。一方で中途入社者は、
・前職とやり方が違うことへの戸惑い
・早く成果を出さなければならないという焦り
・業務量の些細な変化に対する不安
といった悩みです。
「型にはまらないものこそ創造性である」個を重視する企業文化にいかに早期に馴染むか
―浅井さん
ソニーのカルチャーは少し独特なところがあるかなと思っています。いわゆる大企業に属するのだと思うのですが、仕事のやり方・進め方は個々人に任せられている部分が多く、自己の裁量が大きいと思います。
ただ、別の言い方をすれば、属人的な部分も出てきます。例えば、異動で担当者が変わる際に起きがちなことが、「引継書がない」という話です。「前任者がやっていたからやる」ではなく、「自分のやりたいようにやれば良いじゃん」というカルチャー。「ここまでやってね」とあまり制限されないので、本人次第でどこまでも染み出していくことができる。テレワークは、このカルチャーに馴染んでいくための難易度が上がっている気はします。ソニーの良いところの裏返しというところはあるかも知れません。
なので、カルチャーフィットがとても大事です。ただ、100人が100人ぴったりとフィットする人材かというとそうではない。だからこそ、オンボーディング期間で馴染んでもらうことが必要です。そのためにHR OnBoardは非常に有効だと感じています。
今後、HR OnBoardをどのように活用したいですか?
―浅井さん
入社した一人ひとりをしっかりとフォローをしながら、同時にあらゆる角度からの分析もしたいと考えています。入社3か月を過ぎて、チームの様子や仕事の進め方がわかってきた頃に出る要フォロー者(雨マーク)は気になるところですね。全社内での比較もそうですし、ベンチマークとも比較したいです。また、1年を通してどのようにコンディションが変化するのか、という観点でも分析していきたいです。
―笠嶋さん
1年間のデータをもとに、効果をそれぞれグループ会社で検証したいですね。
「自立型人材」が求められる昨今、社員が自ら考え自分の力で仕事を推し進めるカルチャーを持つソニーのオンボーディング施策は、取り入れたい要素がたくさんあるのではないでしょうか。
採用した方が、自社のカルチャーにはじめから馴染めるとは限らない。だからこそ、ソニーの企業文化に慣れていただくまでの期間をしっかりとフォローする。リモート下で入社された社員の戸惑いや不安をしっかりと受け止め、意志を持ってフォローされていく姿が印象的でした。