愛知県で1918年に創業し、105年目を迎えようとする株式会社オティックス。自動車部品の開発から生産までを一貫して行うモノづくりメーカーとして歩み続けています。事業を成長させていく、つまり会社として元気であるためには、社員の健康が最優先と考え、積極的に健康経営を推進しています。その中心である人事健康グループの中村さん、安藤さんに、『HR OnBoard*』を活用した新入社員とのコミュニケーション戦略についてお聞きしました。
導入のきっかけを教えてください
「自動車業界は100年に一度の大変革期」の真っただ中にあり、新しい価値を生み出し続けていくことが強く求められています。それを成し遂げるには、中堅・ベテランはもとより、若手の活躍は不可欠です。そんな社会情勢や経済環境の中で、オティックスは、より一層、新入社員をはじめとした若手社員のサポートに、注力してきました。
一方、ここ数年、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、歓送迎会や忘年会・新年会などの飲食を伴うイベントが開催できなくなったり、せっかく各工場ごとに社員食堂があるものの“黙食”が求められたり、また、昼休憩を一人で過ごすことが増えたり…と、社員同士のコミュニケーションの機会は、必然的に少なくなりました。
そのような状況の中で、メンタル不調を訴える者が、前年の5倍、休職者に至っては同3倍まで増加しました。特に、新入社員にその傾向が顕著で、会社として課題視するようになりました。これらの背景から、『新入社員のメンタル不調による休職者ゼロ』を目標に掲げ、月に一度のアンケートで、新入社員のコンディション(心や身体の状態)を晴・曇・雨のイメージで視覚的にキャッチできる『HR OnBoard』の導入を決定しました。
どのように運用していますか
とにかく、「新入社員との信頼関係を築くこと」を、最大のテーマとして運用することを心掛けています。
1.取り組みの告知
入社日、入社式の開催と共に、新入社員教育の初日に、新入社員には「会社としてHR OnBoardに取り組む目的」と、「自分のスマホから毎月、3問の簡単なアンケートに回答するだけであること」、「アンケートで回答した内容は、上司に共有しないので安心して回答してね。」と伝えました。
私たち人事の印象として、初回のアンケート結果から、大半の新入社員が本音ベースで回答してくれているような気がしました。
─ 安藤さん
いきなり失敗談なんですが・・・、アンケートの配信を開始したての頃は、回答結果や個別メッセージの内容を受けて、「どうしてですか?(理由)」「それは誰のことですか?(詮索)」「こうしてはどうですか?(提案)」と、良かれと思って私から積極的に、原因究明や問題解決を目的としたメッセージを送っていました。
それがリアルに、まったく誰1人からも、その問いかけやアドバイスに対する返事がありませんでした…。
今、思い返せば、悩み(本音)などはもとより、本人の気持ちを受け止めることができていなかったし、そもそも信頼関係が築けていなかったな、と深く反省しました。
それからは、季節の移り変わりのような些細な事柄や、担当者である私自身のことを伝えるように、メッセージの内容を大きく変えてみました。すると、少しずつではあるものの着実に返信が増え、「信頼関係ができつつあるのかな」と、ささやかながら感じられるようになりました。
2.回答結果に対するリアクション
HR OnBoardの回答結果から、フォローが必要だと思われる人(コンディションが芳しくない人)、フリーコメントを書いてくれた人すべてに、システムを介して個別メッセージを返信します。半年たったタイミングでは、対象者全員に個別メッセージを送りました。
3.フォロー方針の決定
毎月、全員の回答が出揃ったら、人事健康グループのメンバー4人で会合を開き、今後のフォローの方針を決めていきます。
誰にどのようなフォローをするのが良いか?前回の結果から、どう変化したか?など、活発に意見を出し合います。例えば、「雨(要注意)」が2ヶ月連続となったり、「晴れ(問題なし)」から曇を飛び越えて「雨(要注意)」に急変した場合は、“個別フォロー候補者”となり、個別(対面)フォローの是非や、その具体的方法を検討する、などの方針を決定しました。
4.個別フォローの実施
新入社員は、入社から正味2週間の新入社員教育を経て、各職場へと配属されます。前述の“個別フォロー候補者”に対して、これまで接してきた中で得た肌感覚を研ぎ澄ませながら回顧し、HR OnBoardのアンケート結果を踏まえて総合的に検討します。
“このまま様子を見る”のか、“いち早く個別フォローに移行する”のかを決定し、個別フォローが必要と判断した場合は、人事に常駐する保健師との対面での個別面談を実施します。対面での個別面談を実施するメリットの1つとして、(表情や声のトーンをはじめ)本人のリアルな様子を把握できること、アンケートの回答結果と同じように、上司には、個別面談の内容を報告しない旨、伝えることで、安心して話をすることができます。
また、個別フォロー対象者が働いている工場に、保健師が直接、足を運び、顔を合わせて面談しています。対面でしっかりと傾聴を心掛けることで、「何でも話して良いんだ」という雰囲気を作りやすいのでおススメです。
その他には、個別面談を実施しないまでも、各工場ごとに在籍する労働組合の執行部メンバーと連携をとり、心配な社員のことを注意深く見守って欲しい、という声掛け・依頼をしています。
アンケート回答率100%の理由
オティックスにおける新入社員教育は、コロナ禍以前より、リアル形式(対面)で実施しています。
そんな形式での面合わせが続く教育期間中、私は新入社員をずっと見ていた、いわば担任の先生のようなものなんです。新入社員教育の期間中、新入社員全員に、毎日、気付きノートを人事に提出させ、人事が全員分を毎日、目通しした上に、一人一人のノートに、フィードバックとして、コメントを手書きで記述して、翌朝、返却しています。手作りの交換日記だからこそ伝わる、お互いの熱量と気持ち。正味2週間の新入社員教育が終わり、彼ら彼女らが配属されると、正直、私の方が寂しくなります(笑)
毎月1日のアンケート配信を経て、導入から半年以上が経過しましたが、新入社員教育の期間中に自然と結ばれた信頼関係により、今も、回答率100%を維持できています。それは“とても喜ばしい”ということだけにとどまらず、新入社員のコンディションを把握する上でも、とても大切なポイントではないか、と感じています。
どのような成果が出ていますか
目下、メンタル不調者 及び メンタル不調を理由とする休職者が、ともに0名のまま推移できています。この経過は、前年度と比べて大きな改善であり、とても喜ばしい状態です。実際、1人の新入社員の心を救えたかなと思えるような嬉しい事例にも遭遇しました。それは、HR OnBoardのアンケート結果で要注意が続いていた方(個別フォロー対象者)との個別面談で、話をしている最中に、自然と涙をこぼしてしまう方がいました。誰かに話すことで、少しは心が解放されたのか、今では元気に働いています。
昨年、2021年度までの人事と新入社員との直接的な関わりは、見かけ上では、新入社員教育の期間中だけでしたが、HR OnBoardの導入をキッカケに、今年度から初めて、2週間の新入社員教育が終わった配属後も、人事と新入社員が繋がることができるようになりました。毎月のサポートを続けるうちに、少しづつではあるものの信頼関係が積み上がり、これまで以上に、社員の活躍・定着をサポートできるようになってきたと感じます。
また、エン・ジャパンのカスタマーサービス担当の方が、いつでも、どんな内容にでも、気軽に相談にのってくれるので、とても助かっています。こういう時は、どのようにフォローすれば良いのか、など、私たちが大小さまざまな壁にぶち当たった時にも真摯に向き合っていただけます。そのおかげで、瞬間的に生じた不安や不明点も、しっかりと解消することができ、安心して運用を続けることができています。人事部門における課題解決のための研修の実施に関する検討まで、具体的に相談できるので、まさに、オティックスの人事のパートナーのようですね。
新入社員と信頼関係を築くための戦略が細かく練られていました。HR OnBoardの導入、そして運用を成功させるため、日々の新入社員との関わり方をより良くするためのヒントが盛りだくさんです。