静かな解雇が起きる職場の共通点とは?人事が見逃してはいけない組織のサイン

静かな解雇が起きる職場の共通点とは?人事が見逃してはいけない職場のサイン(エン Discover HR)

「静かな解雇」という言葉を耳にしたことはありますか。海外を中心に広まったこの言葉は、近年日本でもSNSやビジネスメディアで取り上げられる機会が増えています。人事担当者の中には、「自社には関係のない話」と感じる人もいるかもしれません。しかし、従業員が「会社から期待されていない」「見放されている」と感じる状況は、多くの職場で起こり得ます。

本記事では、静かな解雇の意味や背景を整理するとともに、従業員がそう感じやすい職場の特徴や、人事が知っておきたい対応のポイントについて解説します。

目次

この記事の要約

  • 静かな解雇とは:企業が直接解雇を示さず、業務機会の減少やフィードバック不足などによって、従業員が「期待されていない」「退職を促されている」と感じる状態を指す。重要なのは施策そのものではなく、説明や対話の有無である。
  • 起きやすい職場の特徴:評価や異動の基準が不透明で、管理職ごとのマネジメント品質に差があり、従業員のエンゲージメント低下の兆候を把握できていない組織では、静かな解雇と受け取られる状況が発生しやすい。
  • 人事の対応ポイント:評価・異動の説明責任を果たし、質の高い1on1やフィードバックを実施することが重要。サーベイや人事データを活用して兆候を早期に把握し、対話を通じて納得感のある組織づくりを進める必要がある。

静かな解雇とは

静かな解雇(Quiet Firing)の意味

静かな解雇とは、企業が直接的な解雇通告を行わず、間接的な方法によって従業員の自主退職を促す行為を指します。具体的には、

  • これまで担っていた重要な業務から外れる
  • 担当業務が減り、自身の役割が見えにくくなる
  • 昇進や昇給の機会が得られない状態が続く
  • 期待や評価に関するフィードバックが十分に行われない
  • 上司や周囲との対話が減る

といった状況が挙げられます。

こうした状況が続くと、従業員は「期待されていない」「組織から距離を置かれている」と感じることがあります。その結果、「退職を促されているのではないか」と受け止められ、静かな解雇として語られるケースも少なくありません。

ただし、人事評価や配置転換、役割変更は、組織運営や人材育成において欠かせない取り組みです。そのため、こうした対応が行われたことだけをもって、静かな解雇に当たるとは言えません。重要なのは、評価や配置の判断に合理的な理由があるか、またその意図や期待が本人に適切に伝えられているかどうかです。

【図】同じ人事施策でも、受け止め方によっては「静かな解雇」と認識されることがある
【図】同じ人事施策でも、受け止め方によっては「静かな解雇」と認識されることがある

静かな退職(Quiet Quitting)との違い

混同されやすい言葉に「静かな退職」があります。

静かな退職は、従業員が必要最低限の業務のみを行い、過度な貢献や長時間労働を避ける働き方を指します。一方で静かな解雇は、企業側が従業員に対して何らかの働きかけを行うことを意味します。つまり、

  • 静かな退職=従業員側の行動
  • 静かな解雇=企業側の行動

という違いがあります。

なぜ今「静かな解雇」が注目されているのか

背景には、働き方やキャリア観の変化があります。

以前に比べて従業員は、自身の成長機会やキャリア形成、働きがいを重視するようになりました。その一方で、人手不足やマネジメント負荷の増大により、十分なフィードバックやコミュニケーションが行われない職場もあります。

その結果、「期待されていない」「放置されている」と感じる従業員が増え、静かな解雇という言葉で表現されるようになったと考えられます。

なぜ従業員は「静かに解雇された」と感じるのか

期待や評価の理由がわからない

従業員が静かな解雇を感じる最大の要因の一つが、説明不足です。例えば、評価が下がった場合に、

  • なぜ評価が下がったのか
  • 何を改善すればよいのか
  • 今後どのような期待を持たれているのか

が伝わらなければ、本人は評価結果だけを受け取ることになります。

また、異動や配置転換が行われた際も、目的や期待役割が共有されなければ、「自分は必要とされていないのではないか」という不安を招きかねません。企業側には合理的な理由があったとしても、従業員が理解できなければ、静かな解雇と受け止められる可能性があります。

上司との対話が不足している

近年、多くの企業で1on1が導入されていますが、実施しているだけでは十分とは言えません。上司との対話が不足すると、

  • 自分への期待がわからない
  • 将来のキャリアが見えない
  • 悩みを相談できない

といった状態になります。

特に成果が出ていない社員や若手社員ほど、対話不足による影響を受けやすいものです。コミュニケーションの機会が失われることで、「自分だけ放置されている」という感覚が生まれやすくなります。

改善支援より放置が選ばれている

成果が出ない社員や問題行動が見られる社員への対応は、多くの管理職が悩むテーマです。しかし、本来行うべきなのは改善支援です。

  • 期待役割を明確にする
  • フィードバックを行う
  • 行動変容を支援する

といったプロセスを経ることなく、仕事を任せない、会議に呼ばないといった対応が行われれば、本人は組織から排除されているように感じます。

こうした状態は、本人だけでなく周囲のメンバーにも不信感を与える要因となります

「静かな解雇」が起きやすい職場の共通点

【図】「静かな解雇」が起きやすい職場の共通点
【図】「静かな解雇」が起きやすい職場の共通点

評価や配置の判断基準が見えない

評価制度は存在していても、運用の透明性が低い組織では不満や不信が生じやすくなります。評価結果だけを通知し、その理由や改善ポイントを伝えない場合、従業員は結果を納得して受け入れることができません。

異動や配置転換も同様です。人事としては組織上の必要性から行った異動であっても、本人への説明が不足していれば「戦力外通告」と受け取られる可能性があります。

管理職任せでマネジメント品質にばらつきがある

組織によっては、マネジメントの大部分を現場管理職に委ねています。その結果、

頻繁に面談する上司 VS.  ほとんど面談しない上司

といった差が生まれます。従業員体験が上司によって大きく変わる状態は、エンゲージメント低下や不公平感につながりやすくなります。特定の上司のもとでのみ静かな解雇のような状態が発生するケースも少なくありません。

エンゲージメント低下の兆候を把握できていない

多くの場合、静かな解雇は突然発生するものではありません。その前段階として、

  • モチベーション低下
  • 上司への不信感
  • 将来への不安
  • 孤立感

などが発生しています。にもかかわらず、サーベイや面談の仕組みが十分でない組織では、その変化を見逃してしまいます。結果として、人事が気づいたときには退職意向が固まっているケースもあります。

問題社員対応のルールが整備されていない

成果不振者への対応ルールが曖昧な企業では、管理職ごとの対応にばらつきが生じます。

適切なフィードバックや改善支援が行われず、「放置」や「仕事を与えない」といった対応が選択されることで、静かな解雇と受け取られやすい環境が生まれます。

静かな解雇が企業にもたらすリスク

従業員エンゲージメントの低下

特定の社員だけの問題ではなく、周囲の社員も企業への不信感を抱く可能性があります。「次は自分かもしれない」という不安は、組織全体のエンゲージメント低下を招きます。

優秀人材の離職

高い成果を出している人ほど、自身の市場価値を理解しています。納得感のない評価や配置転換が続けば、他社への転職を選択する可能性があります。

組織への信頼の低下

信頼は、納得感のあるコミュニケーションから生まれます。評価や異動の理由が共有されない職場では、会社への信頼が徐々に失われていきます。

採用ブランドの毀損

口コミサイトやSNSの影響力が高まる中、組織への不満は社外にも広がりやすくなっています。採用競争が激しい時代だからこそ、従業員体験は採用力にも直結します。

ハラスメント・法的トラブルのリスク

仕事を与えない、孤立させるといった対応は、場合によってはハラスメントと判断される可能性があります。企業にとっては法的なリスクにもつながる可能性があります。

人事は何をすべきか?静かな解雇を防ぐための5つの取り組み

1. 評価・異動の説明責任を果たす

最も重要なのは透明性です。評価結果だけでなく、

  • なぜその結果になったのか
  • 今後何を期待しているのか
  • どうすれば改善できるのか

まで伝える必要があります。異動についても、組織の意図と本人への期待を丁寧に説明することが重要です。

2. 1on1を「実施するだけ」で終わらせない

1on1は実施率ではなく質が重要です。部下が本音を話せる環境を整え、キャリアや業務上の課題について継続的に対話する仕組みづくりが求められます。

3. 管理職のフィードバック力を高める

従業員体験の大部分は直属上司によって決まります。そのため、人事は管理職任せにせず、

  • フィードバック研修
  • コーチング研修
  • 1on1研修

などを通じてマネジメント品質の底上げを図る必要があります。

4. 課題のある社員には改善支援のプロセスを設ける

成果不振者に対しては、まず改善支援を行うことが重要です。期待役割を伝え、改善目標を設定し、定期的に進捗を確認するプロセスを整備することで、「放置」や「排除」と受け取られるリスクを減らせます。

5. サーベイや人事データで兆候を把握する

従業員の不満や孤立感は、退職意向に先行して現れることがあります。エンゲージメントサーベイやパルスサーベイ、人事データ分析などを活用し、早期に兆候を把握することが重要です。

静かな解雇の本質は「対話不足」にある

静かな解雇は、企業が意図的に退職を促す行為として語られることが多くあります。しかし実際には、評価の理由が伝わらない、上司との対話が不足している、配置転換の意図が共有されていないといった状況から、従業員が「自分は見放された」と感じるケースも少なくありません。

人事に求められるのは、静かな解雇という言葉に振り回されることではなく、従業員が納得感を持って働ける環境を整えることです。評価制度の透明性向上や管理職のマネジメント力強化、エンゲージメントの継続的な把握などを通じて、対話のある組織づくりを進めていきましょう。

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