“頑張っているのに成果が伸びない組織”の正体──成果×意欲で見る“組織の偏り”とは

近年、多くの企業でエンゲージメント向上が重要テーマになっています。離職防止や生産性向上、心理的安全性の向上といった背景から、「まずはエンゲージメントを高めよう」という方針を掲げる組織も少なくありません。

しかし実際には、エンゲージメントだけで組織を理解しようとすると、説明のつかない現象が起こります。
そこで本コラムでは、エンゲージメントに「パフォーマンス」を掛け合わせる視点により、組織の偏り(=人の“分布”)を可視化し、状態に合わせた適切な打ち手をご紹介します。

組織を 単一の指標 だけで評価しない

たとえば、エンゲージメントスコア単体で組織を評価しようとすると、

  • エンゲージメントスコアが、現状の業績や成果に結びついていない
  • エンゲージメント向上施策をしても、業務改善や成果向上に繋がらない
  • ある組織はエンゲージメントスコアは他部門より低いが、成果が出ていないわけではない
  • ある組織はエンゲージメントスコアが他部門よりも高いが、統率がとれているとは言い難い

といった状況が起こることも。こうした状況は、どの組織でも起こりえます。

つまり、エンゲージメントは“組織の状態”の一部でしかありません
意欲が高くても能力が不足していれば成果にはつながらず、能力が十分でも意欲が低ければ離職リスクが高まります。

パフォーマンスの軸を加えてみる

今回は、パフォーマンス × エンゲージメントの掛け合わせで組織を見ることで、現場に活かせる“立体的な理解”を試みたいと思います。

実際、職場には特徴的な偏りが生まれます。能力は高いのにどこか冷めている“ハイパフォーマー”が多い職場。逆に、意欲はあるのに成果が追いつかない“頑張り屋”が集まりやすい職場。

こうした偏りは偶然ではありません。採用基準、評価のされ方、マネジメントの癖、仕事の設計といった組織の“当たり前”が積み重なることで、似たタイプの人材が自然と集まり、その組織の空気をつくっていきます。

この偏りを可視化できるのが、パフォーマンス(成果・スキル) × エンゲージメント(意欲・姿勢)という2軸で社員をプロットする方法です。

ここからは、この2軸をもとに人材を4つのタイプに分類し、それぞれにどんな特徴があり、どんな打ち手が効果的なのかをご紹介します。

① 高パフォーマンス × 高エンゲージメント

── 自律自走人材が多い組織は、「強いが閉じやすい」

個々の成果が高く、意欲も強い。
理想的なメンバーが多い組織は、一見すると何も問題がないように見えます。

しかし、“優秀で自走できる人”が集団化すると、意外な弱点が浮かび上がります。

この集団がつくる組織の現象

・自分たちで何でも回してしまい、属人化する
・新人や異動者が入りづらく、内輪化が進む
・圧倒的な当事者意識が「暗黙の期待値」を生む
・周囲や他部署とのギャップが広がる
・組織全体が“強いけど閉じた部族”のようになる

つまり、
強く見える組織ほど“外の風が入らず、再現性が低くなる”という矛盾が起きます。

集団に対する打ち手

・業務の標準化・仕組み化で属人化を防ぐ
・新人・異動者のオンボーディング設計を強化
・「優秀な人に仕事が集中する構造」を変える
・高いパフォーマンスを“組織の知”として共有化する
・内輪化を防ぐために他部署との接点を意図的に作る

この集団は強みが大きい分、
「強さが閉じる瞬間」をどう開くか が組織開発の重要テーマになります。

② 高パフォーマンス × 低エンゲージメント

── 冷めたハイパフォーマーが多い組織は、「個々は強いのに組織が動かない」

個々の能力は高いのに、組織へのコミットは低い。
この集団が増えると、以下のような現象が起こります。

この集団がつくる組織の現象

・会議で厳しい指摘が飛ぶが、合意形成が進まない
・方針への納得が低く、施策が浸透しない
・“自分の仕事は完璧、組織は知らない” という空気が生まれる
・他部署との連携が弱く、サイロ化が進む
・組織は優秀なのに「息が合わない」状態になる

優秀なのに動かない。個は強いのに成果につながらない。
人事にとって「最も説明しづらい組織像」がここにあります。

集団に対する打ち手

・組織の背景・意図を“圧倒的に丁寧に”共有する
・自分の仕事が組織の成果にどうつながるか可視化する
・批判と提案をセットにする仕組みを作る
・横断プロジェクトで“協働しないと成果が出ない構造”にする
・キャリアの可能性・伸びしろを明確にしてコミットを促す

組織が動かない理由の多くが、この集団の存在によって説明できる と言っても過言ではありません。

③ 低パフォーマンス × 高エンゲージメント

── 空回る頑張り屋が多い組織は、「熱量はあるのに成果が伸びない」

意欲は高く、前向き。
しかし、スキルや役割の理解が追いつかず成果に結びつかない。このタイプが集団として多くなると、熱量に対して組織成果が伴わない“疲弊する職場”が生まれます。

この集団がつくる組織の現象

・会議の時間は長いが結論が出ない
・“とりあえず頑張る”文化が根づく
・改善より努力量が重視される
・忙しいのに成果が出ない感覚が蔓延する
・チーム全体がオーバーワークになりやすい

この組織は「熱量が重なって熱く見えるが、成果が薄い」という状態になります。

集団に対する打ち手

・役割・期待値を明確に再定義する
・スキル不足を構造的に補う育成設計をつくる
・努力より成果を重視する評価軸に転換
・業務棚卸しで“やらなくていい仕事”を可視化する
・成果が出るプロセスをベストプラクティス化する

熱量が高いことは財産。だからこそ、“正しい努力”に変換する組織設計 が求められます。

④ 低パフォーマンス × 低エンゲージメント

── スタック層が多い組織は、「構造的な問題が表出している」

成果にも意欲にも課題があり、組織としてもっとも危険信号が強い象限です。しかし、個人の問題として片づけるのは誤りで、多くの場合、背景には以下のような構造要因があります。

この集団がつくる組織の現象

・モチベーションの低下が連鎖し、雰囲気が重くなる
・誰も意見を言わず、“静かな停滞”が生まれる
・マネジメントの指示が機能せず、現場が混乱する
・配置ミスマッチや業務過多が放置される
・組織のどこかで構造的な歪みが生じている

迷子層が多い組織は、“人が悪い”のではなく、“仕組みが悪い” ことがほとんどです。

集団に対する打ち手

・役割設計・業務設計の根本的な見直し
・マネジメントラインのコミュニケーション再設計
・健康・メンタルケアの導線強化
・適性に応じた配置転換を短期で実施
・断絶・摩擦がどこで起きているか構造的に分析
・“迷子が生まれにくい組織構造”の再構築

この象限は、組織の根本課題を映し出す“鏡”のような存在です。

最後に

パフォーマンス × エンゲージメントという2軸で人を見ることは、個々の評価だけでなく、組織の空気・強み・歪みといった“構造”を捉えることにもつながります。どの象限の集団が厚いのか、その偏りがどんな風土をつくっているのか——。

組織は、そこにいる人たちの“分布”から変わり始めます。まずは自分たちの現在地を知り、次にどんな組織をつくりたいのかを描く。その一歩として、分析をぜひ活用してみてください。

エンがご支援できること

エンでは、組織の状態を立体的に把握するための「組織別エンゲージメント診断」を提供しています。社員の意欲や価値観を多面的に測定できるため、今回取り上げたような“組織の偏り”を理解するうえでも基盤として活用いただけます。

また、eラーニングサービス「エンカレッジ」には、エンが体系化した『CareerSelectAbility®』(=どこでも活躍できる力)を可視化し、その向上に役立つ講座群が用意されています。個人の成長支援と組織開発を一体的に進めたい企業で幅広く活用されています。

組織と個人の両面から成長を支える仕組みづくりにご関心があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

組織別エンゲージメント診断

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